忘れられない夏の出来事2017

呼び鈴を聞いてドアを開けると
暑い日差しの中にY夫人が、杖で体を支えながら立っていた。
「あの絵が忘れられなくて、来てしまったの」
私は突然の訪問にびっくりしたが、その言葉を聞いてもっと驚いた。
彼女は7年前に息子さんをなくされ、ご自身も病気と闘いながら
一生懸命に仕事をされている。
私たちが5年ぶりに再開したのは、7月の展覧会の会場だった。
「あの絵を見たら、もう私は闇の中から抜けたと思ったの。
家に帰っても忘れられなくて・・毎日見ていたいと思ったの」
私は彼女の表情を見ながら、目頭が熱くなってしまった。
私の描いた絵に涙を流してくれる人がいたなんて・・
嬉しさと同時に身の引き締まる思いがした。
精進を重ねるということの意味を深く感じた。
彼女の部屋に飾られた私の絵は
今日も彼女と会話しているに違いない。
さあ、私の今日を精いっぱい生きよう。